京大 数理解析研究所 RIMS共同研究 (公開型)

「非平衡な乱流」

期間:2024年7月22日(月) -- 7月24日(水)

会場:京大 数理解析研究所 111号室

形式:対面と Zoom によるハイブリッド開催

研究会代表者:松本剛


プログラム

7月22日 (月)

14:00--14:30    稲垣和寛*(同志社大)、堀本康文(北海道大)
流れの曲率の効果を取り入れた弱平衡近似を用いない乱流モデルの構成
(対面)
14:45--15:15    大木谷耕司(京大数理研)
全空間と周期領域における 3次元Navier-Stokes流の比較
(オンライン)

2024-07-22 13:35記 東海道新幹線一部運休の為、西山さんのご講演と三浦さんのご講演については以下のように変更いたします。

15:30--16:00    三浦英昭*(核融合研), Sharad K.Yadav(SVNIT), 荒木圭典(岡理大), Rahul Pandit(IISc), 後藤俊幸(名工大)
一様等方Hall MHD乱流の微細構造と間欠性
(対面)
16:15--16:45    西山大裕*(東北大院情報)、服部裕司(東北大流体研)
成層乱流のLESと機械学習による乱流モデリング
(対面)

7月23日 (火)

9:30--10:00    有木健人(筑波技大)
高Schmidt数におけるPassive scalar 乱流の統計理論
(オンライン)
10:15--10:45    横山直人*(電機大)、水野吉規(気象研)
温度成層下の一様剪断乱流における鉛直フラックスと秩序構造
(オンライン)
11:00--12:00    齋藤泉(名工大)
微小粒子群による乱流ゆらぎの変調
(対面)
13:30--14:30    長田孝二(京大工),渡邉智昭(京大工),Yulin Zheng(Harbin Engineering University)
準一様等方性格子乱流場における乱流運動エネルギーの非平衡散逸率
(オンライン)
14:45--15:15    K. Chola* (OIST) and P. Chakraborty (OIST)
Turbulent dissipation rate in isotropic and anisotropic flows
(対面)
15:30--16:00    金田行雄 (名大多元数理)
渦集中領域の形の非等方性 vs. 乱流統計の等方性
(対面)
16:15--16:45    横井喜充 (東大生研)
非平衡乱流輸送:ダイナモと恒星対流
(対面)
17:15--    懇親会
(対面)

7月24日 (水)

9:30--10:00    蛭田佳樹*(京大数理研)、石本健太(京大数理研)
生物対流における双安定性と局在構造
(対面)
10:15--10:45    佐々木英一* (秋大理工), 河原源太(阪大基礎工)
Couette乱流のLyapunovベクトルの動力学
(オンライン)
11:00--12:00    廣田真*(東北大)、井手優紀(JAXA)、服部裕司(東北大)
粗さ要素を用いた境界層の乱流遷移制御のメカニズムと課題
(対面)
13:30--14:30    国吉秀鷹(東大理)
太陽大気加熱における渦の役割
(オンライン)
14:45--15:15    吉田恭(筑波大数理物質)
波数空間および時間区間での定流束状態を用いた乱流のアンサンブルモデル
(対面)
15:30--16:00    毛利英明 (気象研)
$1/f$ 雑音と乱流の流体力学
(対面)
16:15--16:45    T. Gotoh*(NITech, and Keio U.) and P.K.Yeung (Georgia Inst. Tech.)
Probability density functions of enstrophy and dissipation and their 1d surrogates in isotropic turbulence
(対面)

アブストラクト

有木健人 (筑波技大)
高Schmidt数におけるPassive scalar 乱流の統計理論

高Schmidt数におけるpassive scalar の統計法則を、乱流完結理論(Ariki&Yoshida, 2021)を用いて解析した。粘性拡散領域における普遍 Batchelor 定数は3.60となり、従来理論の予測と比較して、実験や数値計算における示唆に近付いた。また完結理論を用いて、有限Schumidt 数におけるscalar スペクトルを計算し、長大な慣性小領域下に発達する粘性拡散領域の構造を解析した。


K. Chola* (OIST) and P. Chakraborty (OIST)
Turbulent dissipation rate in isotropic and anisotropic flows

A critical attribute of a turbulent flow is the rate at which it dissipates energy: the turbulent dissipation rate, $\varepsilon$. Computing it, however, is a daunting task, for it entails 12 gradient moments. For homogeneous and isotropic turbulence, Taylor, in 1935, derived a remarkably simple formula with which $\varepsilon$ can be determined using just one gradient moment. But for this formula, it would be infeasible to obtain $\varepsilon$ in most empirical studies. Though Taylor’s derivation is a classic, it left many key questions unanswered. In particular, it is unclear if Taylor’s formula holds only for a few discrete rotations that Taylor considered or for arbitrary rotations. To have clear insights into Taylor's formula, we use the rigorous framework of Lie group theory to derive it, thereby casting new light on its underlying symmetries. After that, we consider the more general case of homogeneous but anisotropic flows. We use the machinery of SO(3) decomposition to decompose $\varepsilon$ into an isotropic section and a hierarchy of anisotropic sectors. This is ongoing work, and we will describe our preliminary results.


T. Gotoh*(NITech, and Keio U.) and P.K.Yeung (Georgia Inst. Tech.)
Probability density functions of enstrophy and dissipation and their 1d surrogates in isotropic turbulence

Relation between the probability density functions (PDFs) of the three dimensional enstrophy and the one dimensional surrogate enstrophy in an isotropic turbulence is mathematically derived and verified by the direct numerical simulations. The PDF of 1D surrogate enstrophy has longer tail than that of the PDF of 3D ensterophy, and they obey the stretched Gamma distribution with the same stretching exponents. Similar analysis is made on the dissipation rate and some results will be presented.


廣田真*(東北大)、井手優紀(JAXA)、服部裕司(東北大)
粗さ要素を用いた境界層の乱流遷移制御のメカニズムと課題 [招待講演]

境界層が乱流に遷移すると摩擦抵抗は大幅に増加するため、気流乱れの小さい巡航状態の飛行機まわりにおいて、なるべく境 界層を層流に保つための様々な研究が進められている。境界層(=せん断流)の線形安定性解析によって一次不安定性の発生は 概ね予測できるが、これは非線形飽和によってしばしば渦列を形成する。さらにそれが二次不安定性によって三次元的に変形 や崩壊することで乱流へと遷移するため、遷移の正確な予測は数値的にも難しい。
壁面粗さはこの境界層遷移過程のみに大きな影響を与える制御デバイスとして古くから注目され、通常は遷移を促進する擾乱 源となる。一方で、特徴的なパターンの粗さ要素を配置することで、逆に遷移を抑制する効果も見つかっている。しかし、こ の効果を期待通りに発現させるのは難しく、実用化には至っていない。本研究では安定性解析やDNS解析を駆使して、遷移抑 制効果の高いデバイスを提案しており、本講演ではそのメカニズムや現状と課題についてまとめる。


蛭田佳樹*(京大数理研)、石本健太(京大数理研)
生物対流における双安定性と局在構造

近年、生物対流系における対流の発生において、熱対流系と異なり 対流状態の初期値依存性やその対流構造の空間局在が報告されている。 講演では、熱対流系との相違点の原因を調べるため、 熱対流から生物対流へ連続的に変化できる数理モデルを考え、 そのダイナミクスを理論的・数値的に解析した結果を報告する。


稲垣和寛*(同志社大)、堀本康文(北海道大)
流れの曲率の効果を取り入れた弱平衡近似を用いない乱流モデルの構成

回転系のせん断乱流ではしばしば平均絶対渦度がゼロとなる平均速度分布が実現される.また,Taylor--Couette(TC)流れにおいては,発達した乱流状態において平均角運動量が一定となる分布が実現される.このような流れの曲率や回転に伴って形成される特徴的な速度分布は簡易な渦粘性モデルでは予測できない.したがって,回転系における平均速度分布の予測は,汎用的な乱流モデル開発のためのベンチマークとなる.流れの曲率や回転が乱流の平均場の特性に寄与する場合,Reynolds応力の非等方テンソル(Reynolds応力の偏差成分を乱流運動エネルギーで除したもの)のLagrange微分をゼロとするいわゆる弱平衡近似が成り立たない.すなわち,弱平衡近似を用いない乱流モデルを構成する必要がある.本研究では,TC乱流における平均角運動量一定分布を予測する乱流モデルを構成し提案する.特に,流れの曲率や回転の効果を,座標変換に対する共変性を保持した形で表現する.


金田行雄 (名大多元数理)
渦集中領域の形の非等方性 vs. 乱流統計の等方性

高レイノルズ数乱流中の小さなスケールでは渦度が高い領域が間欠的に現れ、その領域の形は渦管状などの非常に強い非等方性(形状非等方性)を示すことが知られています。一方、Kolmogorovの理論をはじめ多くの乱流理論では、高レイノルズ数乱流中の十分小さなスケールでは、乱流統計は局所的に等方的であると考えられています。本講演では渦集中領域の「形状非等方性」の乱流の「等方的統計」への影響の可能性について議論します。


国吉秀鷹 (東大理学研究科)
太陽大気加熱における渦の役割 [招待講演]

太陽上層大気(コロナ)は表面(光球)よりも数百倍高温で、100万度以上にも達する。なぜコロナは光球より遥かに熱いのか?これは「コロナ加熱問題」と呼ばれ、宇宙物理学の最重要課題の一つであり、磁場の効果が不可欠である。加熱に必要な磁気エネルギーは、光球での熱対流プラズマと磁場との相互作用により準定常的に発生し、非圧縮性の磁気流体力学波であるアルフベン波によってコロナへ輸送される。輸送された磁気エネルギーは、乱流による散逸が主要なエネルギー散逸機構であると考えられている(アルフベン波乱流モデル)。アルフベン波乱流モデルはコロナの温度を定常的に保ちつつ平均的な温度を再現できるため、定説として広く受け入れられている。しかし、実際のコロナはダイナミックで幅広い温度分布を示している。このモデルでは、特に高温成分($>1,500,000$ K)を再現できないという問題がある。近年の高解像度観測・数値計算によって、従来の定説では無視されていた小スケール($< 100$ km) な相互作用で突発的に生じる渦状の磁気流体波(磁気トルネード)が、コロナ加熱の新たなエネルギー輸送機構として 注目を集めている。しかし磁気トルネードにより輸送された磁気エネルギーがどのように散逸され、その結果コ ロナが何百万度まで加熱されるかはよくわかっていなかった。そこで我々は対流層からコロナまでを一貫して解 く数値シミュレーションを用いて磁気トルネードによるコロナへのエネルギー輸送を計算した。その結果、磁気 トルネードによってリコネクションが駆動され、コロナは局所・突発的に定説 (アルフベン波乱流モデル) よりも $2-3$ 倍高温にまで加熱されることがわかった。本講演では磁気トルネードによる加熱の仕組みの詳細についても合わせて議論する。


三浦英昭*(核融合研), Sharad K.Yadav(SVNIT), 荒木圭典(岡理大), Rahul Pandit(IISc), 後藤俊幸(名工大)
一様等方Hall MHD乱流の微細構造と間欠性

Hall MHD乱流については、コヒーレント構造・微細構造・構造関数など多様な研究の蓄積がある。この発表では、Hall MHD乱流に現れる大規模コヒーレント構造と微細構造の関係を、一様等方Hall MHD乱流シミュレーションによって調べる。MHDスケール・サブイオンスケールそれぞれの階層に対するHall項の影響を、磁気プラントル数が1の場合と高い場合との比較も交えて調べた結果について報告する。


毛利英明(気象研)
$1/f$ 雑音と乱流の流体力学

$1/f$ 雑音は様々な系で検出されているが、その起源は未だ不明である。本発表では、通常の拡散方程式を用いて$1/f$ 雑音の発生を新たに再現し、得られた表式と乱流におけるスケーリング則とくに壁乱流の$1/k$ 則とを比較することで、$1/f$ 雑音全般の発生に関する条件を議論したい。


長田孝二*(京大工),渡邉智昭(京大工),Yulin Zheng(Harbin Engineering University)
準一様等方性格子乱流場における乱流運動エネルギーの非平衡散逸率 [招待講演]

格子乱流(風洞実験での格子レイノルズ数33000,DNSでの格子レイノルズ数10000, 20000)の初期減衰および遠方場での乱流エネルギー散逸率を評価した.格子乱流場における無次元散逸率は初期減衰場ではTaylor長基準の乱流レイノルズ数の約-1乗に比例して減少し,遠方場で一定となることがこれまで報告されているが,積分長程度の局所スケールで無次元散逸率を評価した結果,遠方場においても乱流レイノルズ数の約-1乗に比例して減少することがわかった.


西山大裕*(東北大院情報)、服部裕司(東北大流体研)
成層乱流のLESと機械学習による乱流モデリング

機械学習によりサブグリッドスケールモデルを作成し、成層乱流のラージエディシミュレーション(LES)への適用可能性を調査した。また、モデルの学習過程において制限を加えることにより格子スケール以下との過剰なエネルギー輸送が抑制されモデルの安定化と予測性能の向上につながることを検証した。


大木谷耕司(京大数理研)
全空間と周期領域における 3次元Navier-Stokes流の比較

大きな箱にある局在した流れを domain truncation による差分法で取り扱い、 全空間の流れを模倣する。非局所項の評価には Poissonソルバーを用いる。 いくつかの初期条件に対して、Reynolds 数を保ちつつ初期値を周期領域に転写し、 Fourier 擬スペクトル法による直接数値計算を行い、両者を比較する。 Reynolds 数が小さい場合(減衰終期)、両者に大きな差はみられない。 Reynolds 数が大きい場合(渦輪の衝突)、全空間よりも周期領域の方が減衰が 速いことが分かる。

参考文献:
"Numerical comparison of two-dimensional Navier-Stokes flows on the whole plane and the periodic domain", Koji Ohkitani, Phys. Rev. Fluids 8, 124607 (2023).


齋藤泉 (名工大)
微小粒子群による乱流ゆらぎの変調 [招待講演]

微小粒子群の乱流輸送は、エアロゾルや雲中の雨滴、固体粒子の空気輸送など、多くの自然現象や工学的応用において重要な役割を果たしている。これらの現象では、微小粒子群は乱流によって輸送されるだけでなく、凝縮蒸発、熱輸送、摩擦力などを通じて、幅広い時空間スケールに亘って乱流を変調する。本講演では、直接数値シミュレーションとランジュバン方程式(確率微分方程式)を用いて、熱輸送と摩擦力を通じた微小粒子群による乱流ゆらぎの変調を解析した最近の研究について述べる。


佐々木英一*(秋大理工), 河原源太(阪大基礎工)
Couette乱流のLyapunovベクトルの動力学

Lyapunov解析は解軌道に沿った微小摂動の振る舞いを調べる方法で,初期値鋭敏性を 定量的に評価することができる.我々は平行平板間Couette乱流についてLyapunov解析 を行った.壁面摩擦Reynolds数が増加すると,Lyapunov指数はKolmogorovスケーリング に従い単調増加する.また,Lyapunovベクトルのエネルギースペクトルはバッファー層に 大きな振幅を持ち,小スケールの摂動が軌道不安定性に寄与することが分かった.ガウシ アンフィルターによって乱流の流れ場をスケール分離したところ,小スケールの剪断層 が不安定性の要因になること,Lyapunovベクトルの渦構造は大スケールの渦に巻き付く ことを見出した.これらの結果は,乱流場のスケール間相互作用が顕著な剪断層が 相空間における軌道不安定性を特徴づけることを示唆する.


横井喜充 (東大生産技術研究所)
非平衡乱流輸送:ダイナモと恒星対流

応答函数を用いた理論枠組みは,外部パラメータを用いずに非線型の方程式系を閉じる強力な方法を提供する.多重スケール解析と組み合わせた応答函数理論では,非一様性や非等方性と同様に乱流の非平衡性の効果を乱流流束の表現に取り込むことができる.ダイナモの問題では,速度ゆらぎと磁場ゆらぎのクロス相互作用応答と乱流の非平衡性が組み合わさると平均磁場の生成に寄与することが示される.対流の問題では,対流運動に沿っての非平衡性が乱流の時間スケールや長さスケールを変える.表面の放射冷却によって,恒星対流層中では沈降プリュームが生成される.そのような系で,非平衡性は乱流による質量流束や熱輸送にとってきわめて重要であることが示される.


横山直人*(電機大)、水野吉規(気象研)
温度成層下の一様剪断乱流における鉛直フラックスと秩序構造

安定温度成層下にある一様剪断乱流の直接数値計算を行ない、運動量および熱の鉛直フラックスの類似性と非類似性を調べ、時空間で間欠的に生じる局所的な秩序構造が作る流れによるこの系のエネルギー輸送機構を明らかにする。また、温度成層を伴う乱流境界層の風洞実験で得られた統計量や不安定成層下にある同様の流れとのエネルギー輸送機構の比較を用いて、温度成層の乱流への寄与を議論する。


吉田恭(筑波大数理物質)
波数空間および時間区間での定流束状態を用いた乱流のアンサンブルモデル

乱流のアンサンブルモデルとして、エネルギーなどの保存量が波数空間上を一定の流束で流れる定流束状態を集めたものが著者により提案されている(Phys. Rev. E 106, 045106(2022)、文献[1])。このアンサンブルについての統計量を解析的に求めるのは困難であるが、一方でアンサンブルの中の典型的状態を数値的に探索する手法の有用性が期待される。文献[1]では、2次元流体場において近似的に定エンストロフィー流束となる状態をサンプリングした結果、その場のエネルギースペクトルが完結近似理論や直接数値シミュレーションで知られたエンストロフィー・カスケード領域のベキ則と整合することが示された。文献[1]の研究では瞬時的に定流束となる状態を探索したが、本研究では元々の理論的提案により沿った形で定流束がある有限時間区間近似的に維持される状態の探索を行った。講演では得られた場の統計的性質を議論する。


松本剛 takeshi あっと kyoryu.scphys.kyoto-u.ac.jp