流体物理学ゼミナール2007/04/26


流体力学セミナー 2007 No. 2

日 時 : 07年 5 月 7 日 (月) 15:00〜16:30

場 所 : 京大数理研 009号室

講 師 : 野口尚史
(工学研究科 航空宇宙工学専攻)

題 目 : 二重拡散対流による水平貫入現象の構造

内 容 :
海洋中の密度の鉛直分布は決して滑らかではなく、数10mスケールで鉛
直方向に階段的に密度が変化しているのがしばしば観測される。このよ
うな密度分布を形成・維持するメカニズムとして考えられているものに
二重拡散対流がある。

二重拡散対流は、分子拡散係数が異なる2つの成分によって密度成層し
ている流体で生ずる対流運動であり、いずれか片方の成分についてみた
ときに不安定な成層をしていれば、全体が静力学的に安定な密度成層を
していても生じるのが特徴である。不安定成層しているのが拡散が速い
方の成分(海洋の場合は温度)の場合を拡散型対流、遅い方の成分(塩分)
の場合をフィンガー対流と呼ぶ。

黒潮と親潮のように異なる水塊が接する海域は、多くの場合、水平方向
に密度はほぼ等しいが温度と塩分とが勾配を持った「熱塩前線」になっ
ているため、前線面が傾けば二重拡散対流が生じ得る。実際、このよう
な前線は不安定で、二重拡散対流の効果により両側の水塊どうしが多数
の層に分かれて相互に貫入する運動が生じることが実験的に知られてい
る。貫入層の内部は細長いフィンガー対流が埋めつくし、層どうしは拡
散型対流によって形成されるシャープな密度境界面によって仕切られて
いる。

この貫入運動は、貫入層の厚さに比べてはるかに微細な規模のフィンガー
対流や拡散型対流の集合的な密度輸送により駆動されており、大きく異
なる規模の現象どうしの強い相互作用の結果生ずる現象であるため、理
論解析や過去の数値シミュレーションでは集合的効果のパラメタ化に頼
らざるを得ず、結果がパラメタ化の表現に大きく依存してしまう問題が
あった。

本研究では、まず室内実験で貫入現象を再現し、観察した。次に、フィ
ンガー対流・拡散型対流を解像しつつ貫入層スケールまで表現する2次
元(水平-鉛直)の直接数値シミュレーションを用いて、理想的な状況で
の貫入現象を再現した。

その結果、前線面を挟んでの温度・塩分の差が小さいときは拡散型対流、
大きいときはフィンガー対流が密度輸送において支配的になり、貫入層
がそれぞれ塩分が小さい側、大きい側に向かって傾斜することが室内実
験・数値実験から確認された。この傾斜の反転は活発なフィンガー対流
が層境界面を壊すという、大きな構造の変化を伴なうものであることが
分かった。

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