流体物理学とは

雲や波など自然界にはその織りなす秩序と移ろいによって、我々を魅了する 様々な現象が見られます。このような流体の運動に伴う秩序の形成や乱れの 発達等の研究は、物理学に新しい概念をもたらし大きな刺激を与えています。 今や物理の常識と化したソリトン、カオスやフラクタルなども元々 多様な流体運動を記述するために生み出されました。 流体物理学は長い歴史を持つ分野ですが、いまなお解明されていない日常的な しかも物理としての難問を数多く抱えた若い分野といえます。 たとえば、コーヒーに砂糖を入れスプーンでかき回すと早く溶けますが、なぜ 早くなるのか、どのように溶けるのか、などの問いに対する明確な答を物理は 今のところ与える事が出来ません。その理由は、流体が大きな自由度(原理的 には無限自由度)を持つ系であり、相互作用(非線形性)が重要となること、 更に開放散逸系としての側面も持ち合わせているからです。このような系を扱 う概念や理論的な手法の開発は、物理に課せられた今後の課題です。

さて、我々の研究テーマですが、乱れと秩序の関係を明らかにしようとしています。

時間的空間的に乱れた流れを乱流と呼びます。乱流の特徴の一つとして、分子粘 性に比べ極めて大きな散逸効果(乱流粘性)があります。乱雑な分子運動が流体 の運動エネルギーを熱に変換するように、乱流中の流体の乱雑な運動は大きな スケールのエネルギーをより小さなスケールの運動へと運びます。 このような乱流粘性は統計的に理解されるべきですが、残念ながら未だに確立した 理論はありません。乱流散逸過程はある種の相似性を持っていますので、大きな渦 が小さな渦に壊れていくという描像がしばしば想定されます。この描像に基づく散 逸領域のフラクタル性を仮定した現象論は、乱流現象の一面を見通しよくしました。 しかし、乱流中で何が起こっているのかはまだわかっていないのです。基礎となる 素過程がわからない以上、理論が完成されないのも当然です。そのため大規模な数 値シミュレーションを行い、 グラフィクス等を利用し解析を試み、更に新しいアイデアを提案して素過程の解明に 取り組んでいます。

熱対流中の乱流は、大きなスケールの運動を生み出す機構をも内包しており、秩序 と乱れが共存する不思議な現象で、研究対象の一つです。また、気象や海洋 で扱われる現象は比較的秩序的ですが、これらの現象より小さなスケールでは強く 乱れた乱流状態であるのが普通です。 この様に乱流は完全に乱れた状態ではなく秩序を生み出す機構を内在し、また乱れ 自身が内部構造としての秩序と共に生成されます。様々なスケールの現象が階層構造 を 成して相互に作用しながら乱流を形成しているのです。この多様で複雑な総体として の 乱流から意味のある情報を引き出すことを目標として研究を進めています。 流体現象は自由度の大きさに応じた複雑さを見せますが、その内に潜む簡明さを見 いだす事こそ流体物理学の真髄であり楽しみでもあります。