流体力学セミナー流体力学セミナー
流体力学セミナー 2011
日時: 11月7日(月) 15:30 から 17:00
場所: 京大 数理解析研究所 204号室
講師:宮野尚哉氏
(立命館大学理工学部)
講演題目:
カオスガスタービンの回転運動を支配する拡張ローレンツ方程式とその動的性質
―Rayleigh-Benard対流における大規模循環流との類似点について―
講演要旨:
LorenzモデルはRayleigh-Benard対流を単純にモデル化したものである.熱流体
の運動は,Navier-Stokes方程式にBoussinesq近似の下で浮力項を取り入れた非線
形偏微分方程式によって近似的に記述される.この偏微分方程式をモード解析し,3変
数だけに着目して得られる無次元化非線形常微分方程式がLorenz方程式である.
これら3変数は通常X, Y, Zと表示される.Xは流体速度を表し,YとZは,それぞれ,
上昇流と下降流の温度差,および,流体下部から上部にかけて温度が線形に低下す
ると仮定したときの線形変化からのずれを表す温度偏差である.
Lorenz方程式は,Rayleigh数を臨界Rayleigh数で規格化した換算Rayleigh数,
Prandtl数,および,対流セルの高さと幅の比であるアスペクト比で特徴付けられ,
これらの無次元数の特定の組み合わせのもとでカオス的挙動を生み出す.
カオス状態ではXは不規則に正負の値を取る複雑な時間変化を示す.これをそのまま
解釈すると,循環方向を不規則に反転する熱対流を表すことになるであろうが,
Lorenzモデルは流体の運動を極度に単純化した模型に過ぎないので,Lorenzモデル
の挙動が実際の熱流体の運動に対応するとは考えられていない.
1970年代にMalkusとHowardはLorenz方程式に厳密に従って回転運動する
カオス水車を考案した.カオス水車に触発され,講演者らは(立命館大学理工学部
鳥山寿之教授との共同研究),不規則に回転方向を変えるカオスガスタービンを開発した.
このタービンはジェットエンジンに用いられるような軸流タービンとは異なり,微小電子
機械システム(micro-electro-mechanical systems, MEMS)としてのタービンを製作
する際に採用される平面型タービンの一種である.
カオスガスタービンは,熱流体の運動に関する物理要素である浮力,粘性応力,および,
熱の散逸を,それぞれ,タービン吸気圧力がタービン翼に作用する力のモーメント,
タービンロータに作用する摩擦力,および,タービンからの作動流体の漏出によって真似る.
この点でカオス水車に似た構成であるが,水車とは異なり,力のモーメントをもたらす
吸気動圧はタービン吸気口の中心軸の周りの限定された範囲でのみタービン翼に
作用する.その結果,タービンロータの運動方程式は複雑なものとなり,この運動
方程式の無次元化表現は,ロータの角速度を表す変数(Xに対応する)を中心ノード
として共有しつつ多数のLorenz方程式が星型に結合したネットワークで表される
ダイナミックスに等価となる.これを拡張Lorenz方程式と呼ぶ.拡張Lorenz方程式は
Lorenz方程式の動的性質を継承しており,Lorenz方程式と同様,換算Rayleigh数,
Prandtl数,および,アスペクト比と同じ働きをもつ無次元パラメータで特徴付けられる.
タービンロータの角速度は,〜1010を超える高Rayleigh数の熱流体において観測
される大規模循環流の速度場(mean wind reversal)を想い起こさせるような複雑な
挙動を示す.
本講演では,カオスガスタービンの運動方程式とその無次元化表現である
拡張Lorenz方程式の概要を述べ,次に,拡張ローレンツモデルの動的挙動と
高Rayleigh数におけるRayleigh-Benard対流の速度場の時間変動との間の類似点
を統計的観点から示し,その類似が意味するところについて考える.
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世話人:山田 道夫(京大数理研), 藤 定義(京大),松本 剛(京大理)
アドバイザー:船越 満明(京大情報学)、水島 二郎(同志社大工)、
余田 成男(京大理)
連絡先:山田道夫 yamada@kurims.kyoto-u.ac.jp
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